絶望先生ゆかりの地を訪ねて


漫画家のカラスヤサトシ先生には時々”おもんない神様”が降りてきて、ものすごくどうでもいいようなことに並々ならぬ情熱を傾けてしまったりすることがあるらしい。

あの時、きっと私には”アホなことしたい神様”が降臨なさっていたに違いない。


そう、あの日。


時系列Y−1


私は見知らぬ土地の駅のホームで電光掲示板を見ながら呆然と立ち尽くしていた。




本日は保守工事のため、この先の区間は17:00まで運行を見合わせております。お急ぎの方には大変ご迷惑をお掛けしますが、ご理解とご協力をよろしくお願い致します。



 な ん だ そ れ 。





まずい。





夕方前に帰る予定だったのにこれでは日没に間に合わない。


頭の中でこの旅のきっかけとなったアイツの声が響く。「だから言わんこっちゃない!」と。そりゃお前ならこういう事態も避けることができたかもしれないさ。でもこれはちょっと聞いてないよ・・・。


ああ、どうしてこんなことになってしまったのか・・・。


話は数ヶ月前にさかのぼる。






時系列X−1

その日私は『琵琶湖環状線開業へ!』というチラシを手に、改札横の路線図をボーっと眺めていた。レールによって物理的にこそ環状になっていた琵琶湖周辺だが、今までは一周しようとすると乗換えに時間がかかり面倒くさかったそうだ。それが今度からスムーズになるらしい。


「一周するのも面白いかもな・・・。」


そんな暇なことを考えていたとき、路線図のある部分が私の目に飛び込んできた。・・・確か近くにそんな名前の川が流れていたような気がするが・・・いや、待てよ・・・ということは・・・ひょっとして・・・!?

思わず携帯で路線検索をかけていた。そして予想していた”目的地”が存在し、日帰りで行ける範囲だと知って、私は「思い通り!!」と言わんばかりにほくそ笑んでいた。とても小畑健作画とは思えない面で。








時系列Y−2

三重県の津まで行くつもりだったんですけれど・・・。」


いつまでもホームでボーっとしているわけにはいかないので、前の駅で買った切符を払い戻してもらう。去り際に、津まで行くんだって、と駅員さん同士の会話が聞こえた。そんなに珍しいのだろうか。


―――――さて、ここからどうしよう。
 
エ○ゲならここで選択肢が出てくるところだが、あいにくこれはエ○ゲじゃないし、というかエ○ゲをやったこともないので自分で考える。もし日豊線ならここでTHE ENDだけれども、今いる場所は関西。幸いにも私鉄という迂回路がある。すぐに別の行き方を検索し、計画を立て直した。1時間ほどのロスになってしまったが仕方ない。一つ前の駅に戻り”仕切り直し”だ。





時系列X−2

アホな計画を思いついた私はさっそく具体的な道のりを調べ始めた。日帰りとはいえ1日がかりになりそうだ。学生なら迷わず長期休暇に実行するが、社会人となっては連休もそう多くはない。やるなら土曜日が妥当だろう。
土曜の夜なら特に用事もないし。日曜日の朝早くから何かのイベントに参加したり、10:30からアニメを鑑賞するなんて趣味も私にはない。我ながら完璧だ。
そう言えばもうすぐビヨンド・ザ・どよんどの一周年記念だなぁ。何かやった方がいいのだろうか。とりあえず今は「となりの801ちゃん」発売を祝して御薗橋801商店街にも行っておきたいし、もうすぐオープンする国際漫画ミュージアムにも足を運んでおきたい。その後でも別に遅くはないだろう。





時系列Y−3

遅い。
反対側へ向かう列車の到着が長く感じられた。

ようやく出発時刻だ。遅れを取り戻さねば。・・・・・・と、いっても別に列車のスピードが上がるわけじゃないがな。日本の列車は今日も分刻みで正確に運行されている。大したもんだ。近鉄線までたどり着けば特急もあるが、こんな旅のために特急料金を払うのは癪に触る。今夜のラジオに間に合うのであれば無理して使う必要もあるまい。とにかくこの先乗り換えを間違えないこと、無事に目的地へ付けることを祈ろう。やれやれ。



時系列X−3

まさか春になるとは思ってなかった。あれからいろいろとあって土日はやることが増え、冬は寒いしぃ、などとまごついていたら半年が経ってしまった。だが、まあ、いい。絶望先生のアニメ化も発表されたことだし、あんなことを言った手前、何か体を張ったギャグをかますにはこの企画はもってこいだ。通る路線の段取りも完璧。順調にいけば夕方には戻ってこれるだろう。今日はいよいよ作戦敢行の日である。

最寄の駅へ向かう。天気は晴れ。絶好の行楽日和だ。桜もそろそろ散りかけだし、花見をするなら最後のチャンスといったところか。列車が来た。さあ、出発だ。・・・・・・いや、正確に言うとまだ”出発”ではないのだが。

まずは京都へ向かう。関西鉄道網の重要な基点の一つといえばまず京都駅だ。ユニークな構造の駅舎が迎えてくれる。地元では賛否両論あるそうだが、私は日本の駅舎の中でここが一番好きだ。特に大階段が好きだ。関西に住む前から何度も訪れたことのある思い出の場所である。それに京都駅は、世界的に有名な国際観光都市にも関わらず空港を持たないこの行政区にとって命綱と呼んでも過言ではない。これくらい立派な駅舎を持ってもバチは当たらないと思う。

話がそれた。京都に着く。奈良線へと向かう。この路線に乗るのは初めてだ。そしてもうすぐ。もうすぐこの旅の”始点”であるあの場所に到着する。






時系列Y−4

JR桜井駅で降りて近鉄線に乗り換える。そして一路、三重へ。よく考えたら三重県に来るの初めてじゃないか?まさか初めての三重訪問がこんなアホ企画によるものになるとはね。

いくら電車好きといえど乗車中は暇なので本を読む。「酔わないの?」と聞かれたことがあったが、そう言えば酔った記憶がない。私にとって電車に乗る時間=読書時間だからもう慣れてしまったのだろう。

最後の方、話外れすぎだよなぁ〜と思いながら杉浦由美子の「腐女子化する世界」を読み終える。この「○○化する△△」ってタイトル、流行なのだろうか?「哲学的な何か、あと科学とか」を読みながら、なんだこのどこでもドア、この原理だったらタイムマシーンにだって応用できるじゃないか。装置が存在する時代前提だけれど。などと思っていると伊勢中川に着いた。さぁ、ここまで来れば津まであともう一息。そして”最終目的地”も目と鼻の先だ。この旅の終わりも近い。




時系列Z−1

木津千里「ちょっと、どういうことよ!?」

ブッ!!!

木津千里「『絶望先生ゆかりの地を訪ねて』、ってタイトルなのに、全然関係ない話ばかりじゃない。イライラする!」

ふん。

木津千里「それに、さっきから大人しく聞いていれば、”出発地”だの、”目的地”だの。何をするために、どこへ行きたいのか、さっぱりわからないわ!きっちりして下さい!」

フッ。フフフ。フハハハハハ!!

木津千里「・・・な、なによ。」

私がこの旅で何をしたかったか。一体どこからどこへ行こうとしているのか。勘のいい諸君はもう気付いていることだろう。


木津千里「?」




見よ、これが答えだ!!!




時系列X−4

最初の目的地に着いた。





時系列Y−5

一時はどうなることかと思われたこの旅も、無事、終着点へたどり着いた。





時系列X−5,Y−6



 
木津から!








 
千里へ!







キッチリ、一筆書きの旅!!










時系列Z−2

木津千里「な・・・・・・。」



どうだ!これが今回のアホ企画の全容だ!



木津千里「・・・・・・。」


(・・・あ、あれ?怒った?)


木津千里「(パチパチ)素晴らしいわ。ズゴックさん!」


(ほっっ)


木津千里「私、ズゴックさんのことを見直しました。もっとチャランポランで、いい加減な、変態だとばっかり思ってたのに。」


そう?そう?本当に?(フンフン)


木津千里「私の為に、こんなことをしてくれるなんて。」

いや、別にお前のためじゃないけど。路線図見てたらたまたま木津って駅があったから、「そういえば千里って地名も関西にはあるよなぁ」と気付いて思いついたんだ。

それに一筆書きとか言いながら実際は折り返してるし、乗り換えてるから途切れてるし、それに写真見たら分かるけれど、本当の駅名は「木津(きづ)駅」と「千里(ちさと)駅」なんだよね〜。アハハ。
ま、どうでもいいけどぉ。

木津千里「・・・・・・・・・。」

アハハハハハハハ・・・ハハ・・・ハ・・・。

木津千里「きっちりしていなかったのか?」

・・・え?いや、きっちりしてないっつーか、洒落だしね、洒落。

木津千里「きっちりしていなかったのか?」

まぁ、所詮は思いつきの旅なのでネ!


木津千里「きっちりしてなかったんだな?あ?」


はい。きっちりしていませんでした。



木津千里「こっち来い。根性叩き直してやる。」


ヒッ・・・やめて下さい!こんなものに!こんなものに跨ったらお婿に行けなくなります!


木津千里「滴り落ちる生き血をキッチリ神様に捧げるのです!」


い、痛い!イタイイタイイタイ!


木津千里「次は鞭打ちの儀じゃ。」


痛い・・・・・・あっ・・・でも・・・これは・・・なんかちょっと・・・。


木津千里「(ピシッ)うなっ。(ピシッ)うなっ。」


はーーーーん!こら良かーーーー!








(近鉄津駅構内の待合室)


 〜 終 〜







【参考】今回の旅の道程